髙木健二郎さんのSTORY “いま”動く。「巻き戻せない人生」を後悔しないために

毎日缶ビール6缶に焼酎・バーボン
手術が終わり、集中治療室で目が覚めたとき、自分の身体を見てぎょっとしました。体のあちこちに、10本くらい、いろいろな管が通されています。切られた傷口はヨードチンキで褐色に汚れている。
小学校の理科の授業でやったカエルの解剖を思い出しました。心臓を取り出したら、しばらくは動いているけれど、そのうち死んでしまいます。私も、臓器を一つ失い、あのカエルと同じではないか。
私の病気は食道がんです。いまはロボット手術や胸腔鏡など、比較的身体に負担の少ない手術も普及していますが、私の場合は開胸・開腹手術で、とても大がかりなものでした。お腹などいくつかの部位を切って、肋骨を2本折り、右の肺を圧縮して、さまざまな方向から器具を挿入して行われます。
自分の身体はもう元に戻らない。そう自覚したとき、それまでの生活を振り返り、強烈に後悔しました。
20歳に大学でお酒を初めて飲んだときは、まったく飲めませんでした。少量のビールで顔が真っ赤になって、誰よりも早く潰れてしまう。合コンでは、飲める男がかっこいいし、飲める人だけで盛り上がる。自分も飲めるようになりたくて、飲んでは吐いてと「飲む練習」をしていました。
バブル期に社会人になってからも、広告営業という仕事柄も相まって、酒は飲めて当然でした。練習だったはずが好んで飲むようになってからは、連日、350mlの缶ビールを6缶と焼酎にバーボン。二日酔いで仕事に行くことも珍しくありませんでした。タバコも毎日20~30本は吸っていましたね。
これほど無茶な生活をしていたのに、死を意識したことはありませんでした。普段、人は「死」をはっきりと認識していないですよね。「死」と書いてあるA4の紙が10キロ先に置いてあるようなイメージ。そこに何と書かれているか、誰もが知っているけれど、あまりに遠くにあるから見えません。人が「死」に直面するときは、その紙が一気に鼻の先まで飛んでくるんです。