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髙木健二郎さんのSTORY “いま”動く。「巻き戻せない人生」を後悔しないために

抗がん剤治療中も吸っていたタバコをやめた日

後日、妻に勧められた開業医を訪ねました。先生によると、近年の食道がんの手術は、抗がん剤治療を数週間行ってから実施するケースが多いそうです。総合病院で「すぐに手術する」と言われたことを話したら、首をひねっていました。
先生にがん専門病院を紹介してもらい、後日もう一度検査をしました。食道がんの種類は主に扁平上皮がんと腺がんがあり、私は扁平上皮がんのステージ3と診断されました。
治療法は手術か放射線のいずれかで、私の症状なら手術が標準だそうです。手術を受ける場合、抗がん剤治療を2カ月程行い、腫瘍を小さくしてから実施すると言われました。あのとき妻に勧められていなければ、他の選択肢を知らないまま、すぐに手術を受けていたはずです。
私が手術を選んだのは、まだ放射線治療の予後の研究結果が十分にない時代だったことと、単純に腫瘍を取りたかったからです。逆に言えば、「取れば大丈夫だ」と、実感が持てずにいたかもしれません。術後の5年生存率は3割程度。でも、野球で言えば、3割バッターは強打者です。自分もその3割に入れるだろうと、ポジティブに考えていました。
手術の前に、抗がん剤治療を受けました。副作用でつらかったのは、口内炎です。事前に説明されたときは、口のなかにプチッと出てくる程度だと思っていたら、そんな甘いものではありませんでした。口の粘膜全体が、生乾きのかさぶた状態になる。ひび割れて、ぬるい飲み物でもとても熱く感じます。醤油などの刺激物は痛いし、味もしない。砂を食べているような感じです。
そんな状態だったので、酒を飲む気にもなりませんでした。ただ、タバコは吸えたんです。抗がん剤の治療中は入院していてダメでしたが、2週間程度のインターバルのときに「がんになったのは食道だし、肺は関係ないじゃん」と吸っていました。
すると、2クール目に入るとき、主治医に「タバコ吸ってないですよね?」と聞かれました。もちろん、絶対に吸わないように言われています。私は平然と「吸ってません」と答えました。
でも、そんな嘘はすぐにばれる。先生は「絶対にやめてくれ」と顔を真っ赤にして怒りました。吸えば吸うほど、術後に大きく影響する。その剣幕を見て、「本当にダメなんだ」と理解しました。以来今日まで、タバコは1本も吸っていません。

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