髙木健二郎さんのSTORY “いま”動く。「巻き戻せない人生」を後悔しないために

妻に言われて手術の予約をキャンセル
がんが発覚したのは、48歳のときです。夕飯を食べていたとき、胃の上あたりに違和感がありました。食道の内側に“できもの”があって、飲み込んだものがそれを触るような感覚です。「おかしいな」と思いつつ、その日も酒を飲んでいました。酔っぱらうと、違和感が少し和らいだんです。
「酒の飲みすぎで胃が荒れているんだろう」くらいに考えていましたが、1週間後に会社の人間ドックがあって、内視鏡で診てもらいました。すると先生が、「あれ、ここになにかありますね」と言います。
後日、紹介された総合病院でデータを見てもらったところ、医師に「食道がんですね」と言われました。「風邪です」と言わんばかりに、淡々と。ステージ2から3くらいの進行性のがんで、来週にも手術する必要があると告げられました。
詳しい説明はあまりなく、なにもわかりません。ただ、「進行性のがん」という言葉に、「進行のスピードが速いから、急がなきゃいけないんだ」と思いました。実際は、ステージ2やステージ3 など、「病期が進んでいる」という意味です。
言われるがまま入院の手続きをして病院を出たら、まずタバコに手が伸びました。がんだと言われても、自分のことのような気がしない。一服しながら、「やった! 会社休める」なんて考えていました。それまで、年末年始やお盆以外に長期で仕事を休んだことがなかったんです。
会社に寄ってから帰ろうと、タクシーに乗り、妻に電話しました。妻は、特に慌てることもなく、「しょうがない」と受け止めている様子でした。ところが、事情を話して電話を切ったら、すぐにまたかけてきました。「手術も入院もキャンセルして」と。
義母の知り合いに、がん専門病院出身の開業医がいて、「とにかく一度相談してみたほうがいい」と言います。「もう予約したし、ダメに決まってるだろ」と電話を切っても、またかかってくる。こうなると、ほぼ喧嘩です。結局、私が負けて、すぐ病院へ引き返し、予約はすべてキャンセルしました。