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髙木健二郎さんのSTORY “いま”動く。「巻き戻せない人生」を後悔しないために

「7年間、何をしていたんだろう」

術後7年ほど経ったころ、キャンサーネットジャパンが主催する「Over Cancer Together」というイベントを知りました。がん患者が自分の経験を話すもので、参加してみて大きな衝撃を受けました。
世の中には想像以上に多くのがん患者がいて、がんにもさまざまな種類がある。治療法や事情がそれぞれに異なり、みんな複雑な思いを抱えています。
そして、病気の経験を通してどのように社会貢献したいかと、みんな熱く語っているんです。例えば、アルコールの啓発活動をしていたり、がん治療と就職の両立をサポートしていたりする。なかには、私よりずっと大変な状況の方もいました。
「自分は7年間、何をしていたんだろう」。それまで、自分の経験を誰かに話したことも、誰かの話を聞いたこともなかった。積極的に活動する人たちを見たら、「自分も何かしたい」と考えるようになりました。
それからいろいろな場所に顔を出しているうちに知り合った方に誘われて、忘年会に参加しました。食道の専門医の先生方4人と、食道がんの患者さんを集めた20人程の会です。
そこである医師の方から、当時、食道がんの患者会がひとつもないという話を聞きました。食道がんは非常に予後が悪く、孤立しやすいそうです。情報が入ってこないため、不安を抱えている患者さんが少なくない。だから、ときどきこのような交流の場を作っているとおっしゃっていました。
その忘年会から半年後、経過観察で前立腺がんの疑いがあり、生検をすることになりました。1泊入院して、下半身麻酔で行われます。「もしも、前立腺がんだったら」。麻酔で身体が動かないなか、天井を見つめながら考えました。がんが再発したら、自分は精神的に耐えきれないかもしれない。だから、「動ける間は、できることをすぐにしよう」と決めました。
そのとき、あの忘年会のことを思い出したんです。術後に亡くなっていく方の多い食道がん患者のなかで、私は再発せずに7年も生きている。先生は、日本にはまだ食道がんの患者会がないと言っていた。だったら、その患者会を自分が作るべきではないか。
そう思い立ち、検査結果を待たず、すぐに動き出しました。
しかし、いざ患者会を立ち上げようと思っても、右も左もわかりません。コンセプトを書いた企画書を1枚作って知り合いに声をかけたら、2人が手伝ってくれることになりました。趣味でウェブサイトを作っていたので、ホームページは自前。忘年会で知り合った4人の先生にも連絡したら、「全面的に協力します」と、心強い言葉が返ってきました。
前立腺がんの検査の結果は陰性。患者会は1ヶ月あまりで法人化まで進み、立ち上げたのが「食がんリングス」です。現在は、交流会の開催や食道がんに関する情報発信などを行っています。「術後のことを十分に理解していなかった」「もっと経験者の話を聞いておきたかった」という声は珍しくありません。経験者が発信する情報は、リアルで重みがあります。どこまでとどくかはわかりませんが、それでも伝えていくことが大切だと感じています。
人は「あと10歳若ければ〇〇できるのに」とよく言います。しかし、10年後にそう振り返るのは、その時点での“いま”の自分です。残りの人生をいかに生きるか。私は、5年後、10年後に「あのとき〇〇していれば」と後悔しない道を選びたい。だから、“いま”できることに向き合い続けていきます。

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