池田和泉さんのSTORY 「今日も、生きてるじゃん」。「不安」を「覚悟」に変えた一歩

父の看取り、夫の介護、自分の病気
健康診断で「要再検査」の結果が出たとき、私、すぐに病院に行かなかったんです。自分ががんかもしれないと思っていたのに。
それが2018年のことで、当時私の父は特別養護老人ホームに入っていました。そろそろ看取りという時期で、緊急時の対応について、数カ月に一度施設と確認しなければいけません。亡くなったときには、お葬式から財産のことまで、諸々の手続きも必要です。
もし、父のことを夫に任せられていたら、すぐに再検査を受けていたと思います。夫は以前に脳出血で倒れて、いまでも高次脳機能障害や失語症が残っています。ひとりでは家事もできない状態で、パニックになってしまうこともあります。
私にはきょうだいも子供もいない、夫にも任せられない。自分が入院しているときに父の看取りが始まってしまったらと考えると、どうしても病院に足が向きませんでした。
父が亡くなったのは、それから1年後です。いろいろと落ち着いたタイミングでやっと近所の病院に行くと、すぐに内視鏡検査で直腸がんだとわかりました。最初に感じた不安は、「夫より先に死んでしまうかもしれない」ということです。私が死んでしまえば、頼る人がいなくなります。病院を出て夫に電話で結果を伝えると、仕事を早退して帰って来ちゃいました。やっぱり、不安だったんだと思います。「お母さんが死んじゃうと、俺どうなるの?」って。
大学病院への紹介状を書いてもらって、翌々日から受けた検査の結果は「ステージ4」の直腸がん。肝臓にも転移していると伝えられて、夫も私も言葉が出ませんでした。先生は、慌てて「直腸がんは遠隔転移があると、ステージ4になりますから」って付け加えました。
私の母はずっと前にすい臓がんで亡くなっていて、私も昔から「いつかがんになるかもな」って思っていました。健康診断の結果が出て、お尻は痛いし、出血もある。ただの痔ではないだろうな、先延ばしにすると悪化するよな、早く病院に行かないと。そんなことは、もちろんわかっています。病院に行かなかった1年間、日記を書いていて、いま見返すと「こんなに痛かったんだな。早く行けばよかったのに」って思います。
父と夫のことがあっても、病院に行こうと思えば行けていたはずです。でも、自分ががんになるという恐怖は、それまで感じたことがないほどに巨大なものでした。父の看取り、夫の介護、それに自分の病気。ちょっと重すぎる。「怖いものを見たくない」のほうが本音で、父と夫のことは言い訳にしていたのかもしれません。