榊原由佳さんのSTORY 「私」が納得できるまで。一つひとつの選択が”いま”へとつなぐ

抗がん剤も手術も必要なくなると勘違い
告知の後、これから先の治療を考えて、別の病院を受診することにしました。クリニックの先生は人気のある方でしたが、私とは相性が良くなかったんです。
いろいろ質問しても、はっきりと答えてもらえない。どんな治療を受けるのか、仕事は続けられるのか、私にはわからないことだらけです。「他の患者さんが待っているから」と、あしらわれることもありました。最初の病院探しのときのように、おすすめの病院をいろいろな人に聞いて、職場から通院しやすい、がんの専門病院に決めました。
そこでは、当時まだ保険が効かなかったHBOCという乳がんの遺伝子検査が治験で行われていました。遺伝の検査は自分に関係ないと思っていましたが、せっかくの機会なので受けてみることにしました。
まったく根拠はないのに、勝手に「もし遺伝子検査で何か分かれば、抗がん剤はいらなくなるかもしれない」と考えていたんです。検査の後に先生に聞いたら、「いや、抗がん剤はしますよ」とあっさり否定されました。
抗がん剤治療は半年続きました。最初の3ケ月は、投薬の度に10日くらいほとんど寝たきりの状態で、仕事もお休みさせてもらいました。軽い吐き気がずっと続いて、私には珍しく、食欲もわきません。薬を投与されている間は殆ど食べられず、体重が3キロ減って、次の投薬期間が来るまでに2キロ戻るという繰り返しでした。
妊娠の経験がある方に、炭酸水を飲んだら吐き気が止まったと聞いて、いろいろな種類の炭酸水を試してみました。でも、水分を取るのもつらいんです。体が受け付けたのは、ジンジャエールだけ。抗がん剤治療の後半に食欲は回復しましたが、味が分からなかったり、手足がしびれたり、軽い副作用のオンパレードが続きました。
抗がん剤の間も、「薬が効いて腫瘍がなくなったら、手術がいらなくなるかもしれない」と都合よく考えていました。先生からは、手術は必ずあると言われていたのに。抗がん剤が終わってもう一度検査をしたら、リンパの腫瘍は消えたように見えました。でも、隠れている可能性があるからと、予定通りに手術です。主治医は病院で一番腕がいいと評判の先生で、術後の痛みは全くありませんでした。