川上智美さんのSTORY 「病気の自分」を受け入れる。ストーマが可愛くなるまで
病気でQOLを犠牲にしたくない
2度目の手術を受けた後、再発防止のために抗がん剤治療を提案されました。しかし、肉腫は抗がん剤が効きにくいらしく、「効果があるかはやってみないとわからない」と先生は言います。
腫瘍は手術できれいに取れたと言われていました。本当にまだ治療が必要なのか。抗がん剤治療は体力が落ちて、むしろ再発のリスクが増えるのではないかと思いました。
それに、抗がん剤は髪の毛が抜けるイメージもありました。私はもともと、常識に縛られずに自由に生きたいと考える性格です。結婚も世間的な適齢期は気にしませんでした。好きな仕事をしたり、友人と遊んだり、趣味を楽しんだりしたい。病気のためにQOL(クオリティ・オブ・ライフ)を犠牲にしたくはありませんでした。
人によって大切にしたいことはそれぞれだと思いますが、私の場合は、髪の毛が抜けるのを避けたかった。再発しても「自己責任」と受け止める。夫も「自分で考えて決めたならいい」と言ってくれたので、私は抗がん剤治療を断りました。
しかしその後、合計4回に渡り、再発を繰り返すことになります。初めの再発は最初の手術から半年後でした。抗がん剤はやらないと自分で決めたものの、いざ再発したときは、最初の告知以上にショックでした。
診断を受けた日は、たまたまひとりで病院に行っていました。夫が車で迎えに来てくれたとき、私はひどく青ざめていたそうです。「ひとりで行かせるんじゃなかった」と後悔させたほどでした。それ以来、夫はどんな検査の結果を聞くときも付き添うようになりました。
再発がわかったとき、念のため他の先生にも診てもらいました。最初にがんが発覚した際、セカンドオピニオンを求めて、当時大阪にいた肉腫に詳しい先生を訪ねていました。再発についてその先生にも診てもらいましたが、やはり診断は同じでした。先生に肉腫の治療経験が豊富な医師と紹介していただいたのが、いまの主治医です。
主治医に会う前に一度電話で話をしたら、「ストーマになる可能性がある」と告げられました。腫瘍は、直腸と大腸の境目にあり、直腸を切除する必要があったんです。
突然のストーマの話に、呆然として家路につきました。がん患者になって1年も経っていないときで、ストーマについてよく知らず、「人工肛門」という言葉にいいイメージが湧かなかった。自分の尿や便を目に見えるところに出すことにも抵抗があったと思います。
「ストーマはなるべく避けたい」と言っていたら、主治医が何とか直腸を残す方向で手術をしてくれました。その先生の考えでは、直腸が10センチくらいあれば、ストーマを付けなくても大丈夫だそうです。先生のおかげで、直腸をある程度残すことができました。