川上智美さんのSTORY 「病気の自分」を受け入れる。ストーマが可愛くなるまで
「髪が抜けない抗がん剤」を試す
直腸の手術の後、うまくいけば寛解できるかもしれないとも聞いていましたが、2015年1月に2度目の再発が発覚しました。仙骨のところに2センチ程度の腫瘍ができたんです。比較的小さかったので、手術してすぐに取れました。
ところが、4カ月後、仙骨にまた腫瘍が見つかりました。これで再発は3度目です。2度目の再発の手術が終わったばかりで、傷口はまだ回復の途中でした。期間を開けずにまたすぐにメスを入れると、合併症を起こすリスクが高くなるため、主治医からは手術を勧められませんでした。私は1度目の再発の手術で縫合不全という合併症を起こしていたので、なおさらでした。
すぐに手術が受けられない。しかし、肉腫は放っておくとどんどん大きくなっていきます。このときはじめて、抗がん剤を受けることが選択肢になりました。手術ができるようになるまで、腫瘍の成長を抑えるには、抗がん剤以外に方法がありません。
しかし、このときも髪の毛が抜ける薬はどうしても避けたかった。そこで、抗がん剤の中でも、髪の毛が抜けない分子標的薬を検討しました。当時、パゾパニブという分子標的薬が保険適用になり、使われ始めたんです。まだ使っている人が少なく、私の病気に対しての治験結果がないため、効くかどうかはわかりません。
「分子標的薬を試すなら、腫瘍が小さいときしかない」と主治医に言われたこともあり、2カ月服用してみて、効果があるか判断することになりました。もし効いていなければ、手術は2カ月しか延ばせません。でも、当時の私は、抗がん剤の効果よりも、髪が抜けることのほうが怖かったのだと思います。
パゾパニブは、私の場合、たまたまよく効いてくれました。2015年6月に再発してから2016年の8月まで手術を先延ばしでき、約2センチで見つかった腫瘍は、1年2カ月後も3センチくらいと、進行をかなり抑えられたんです。手術前に2週間程度休薬したのですが、その2週間で腫瘍は一気に大きくなり、切除するときには5センチを超えていました。投薬していなかったらどれだけ大きくなっていたか、想像するだけで恐ろしい成長速度です。