谷田孝子さんのSTORY 10年後の卒業証書。病気を通して知った、過去の自分、本当の自分

自分の感情に蓋をして生きてきた記憶
いま振り返って、家族には、たくさん支えられてきたと感じます。でも、辛さや不安をさらけ出せていたかと言えば、そうではありません。病気になる前から、家族に限らず人に相談したり、甘えたりすることがほとんどありませんでした。困っているところを見せられないんです。がんになっても、「私はがんに携わる仕事をしていたのだから、しっかりしなきゃ」って思っていました。
治療から3年くらい経ったときに、ある人の闘病生活を撮った動画を見たら、わーっと涙が出てきちゃって。「私、本当は辛かったんだ」って気づきました。でも、そこでも「早く立ち直らなきゃ」と思ってしまって、それからも自分の気持ちに向き合えないままでした。
人生を通して、ずっと感情に蓋をすることで自分を守ってきた。がんになってからも、辛い自分を受け入れないようにすることでバランスを取っていた。なんで感情を出せないまま生きてきたんだろうって考えていたら、最近になって幼少期の家庭環境が影響していることに気づきました。
私の母は、父の後妻に入りました。結婚したときにはすでに父の子供がたくさんいて、家庭に入ることを歓迎されているとは言えなかったそうです。私もずっと母から「いい子にしてないと、家を出てかなきゃいけなくなる」って言われ続け、周りの顔色を見て生きてきました。
自分の進路を選ぶ時期になっても、何かをしたいとか、これが好きだということがまったくありませんでした。福祉系の大学に受かっていたのに、親の顔色を見て違う大学に進んで、ほとんど勉強しないまま卒業しました。自分というものの、中身がなかったんです。
だから、髪が抜けたときのショックも大きかったのかもしれません。ちゃんとしている自分、いい子でいる自分。これまで一生懸命繕ってきたのに、その外側を剥がされちゃうような喪失感がありました。