谷田孝子さんのSTORY 10年後の卒業証書。病気を通して知った、過去の自分、本当の自分

神様への願いが叶った後の人生を
一般的に、がんの再発の可能性が低くなる目安は5年ですが、乳がんは10年間経過観察になります。治療から10年を迎えたとき、病院で卒業証書をもらって、「これからのがんのリスクはほかの人と変わらないと考えよう」って決めました。50代のうちに遊ぼうと思って、旅行に映画にと、元気に過ごしています。
息子の大学卒業も無事迎えて、神様への願いも叶った。子供がみんな独り立ちして、ここから先の人生私は何ができるかを考えて、社会福祉士の資格を取ろうと決めました。先日、試験が終わったところです。
保険会社で働いていたとき、お客様の話を聞いてあげられることがやりがいでした。「誰にも言えない思いを聞いてくれて、すっきりしたわ」って言ってもらえる。自分は満足な対応をできていなかったと思っていたのに、お客さんは喜んでくれたこともあった。話を聞くということの大切さを知ることができたんです。本当はそこにもっと注力して働きたかったんですが、成果主義の会社の方針と合いませんでした。
それで仕事を辞めて、別の方法で患者さんをサポートするためにカウンセリングや心理学の勉強もしたけれど、タイミングが合いませんでした。闘病中には、そこまでエネルギーをかけることができなかったんです。
そこからここ数年で、自分が興味を持つ本や映画は、福祉に関する内容が多いことに気づきました。進学はしなかったけれど、福祉の大学も受けていた。「そうか、私はこれを学びたかったんだ」って思い出しました。
うまく言えないけれど、「話を聴く人」になりたいと思っています。「相談を承ります」ではなくて、「話したいことがあったらいつでも聴くよ」っていうスタンス。
相談するためには、自分の中で悩みや不安がはっきりしていないといけません。でも、そこまでいかないモヤモヤも、人に話すことで整理できる場合があります。悩みと思っていなかったのに「実は悩んでいたんだ」って気づくこともある。そのような形でサポートできることもあるのではないかと思います。
福祉にはいろいろな分野があるけれど、いちばん大事なのは子供が育つ環境に対するケアだと考えています。人格が形成される幼少期には、子供自身だけではなく親も含めて環境が整っていないといけません。大人になってから問題を抱えている人は、幼少期に何かしらの問題がある人が多い。世代間で引き継がれる事象を断ち切るためにも、できることがあると思っています。
困ったこと、不安なことを話せる相手がいないまま、問題が大きくなってしまっている人も多いはずです。まだまだわからないことばかりだけど、自分のやりたいことを形にしようと模索中です。
福祉の勉強の中で、「自己覚知」という言葉を知りました。通信講座の最後の授業で、一年半通して学んだ事を漢字一文字にするように言われて、私が選んだのは自己覚知の「知」。病気は決して幸せなことではないけれど、その過程を通してやっと自分を受け入れられた。過去のことを思い出して、自分の感情に気づくことができた。福祉の勉強を通して、自分のやりたいことにも気づいた。自分を知ったんです。