千田律仁さんのSTORY 「もう一度だけ、チャンスをください」大切なことに気付いた“人生のやり直し”

笑顔で泣きながら交わした約束
がんになった後に、自分の病気と向き合える人と、なかなか受け入れられない人がいます。正面から受け止めることができている方たちの共通点は、人とのつながりだと思います。悩みがあっても情報を共有したり、誰かに相談したりして、前向きになれる。受け入れられずにいる人は、悩みを一人で抱えているのだと思います。
妻とは、以前よりずっと会話が増え、お互いの悩みを話せるようになりました。病気のことも、仕事のことも、それ以外のことも。いまの私と昔の私を比べて妻は「変わった」と言ってくれますが、正直、自分でも変わったと思える部分と、今でも変われない部分があります。それでも、夫婦にとって大切なことは「会話」をすることだと気付き、がんをきっかけにお互いに正直に話ができるようになりました。病気になったことで気付かされたことがたくさんあり、今ではがんになって良かったと思えるほどになりました。
病院で告知を受けた日、帰り道に「一緒にご飯を食べに行こう」と妻を誘いました。近くにできた新しいホテルのレストランで、ちょっと高級に、松茸のフルコース。「胃を手術すれば好きに食べることはできなくなるから、いまのうちに」と思ったんです。
病気になったことに対するショックや将来の不安もありましたが、重苦しい雰囲気ではありませんでした。「いままでありがとう」「こっちだって、ありがとう」。「出会えてよかった」「また生まれてきても、もう1回一緒になりたい」。お互いに笑いながら、でも泣きながら、自然と言葉が出てきたんです。