大島直也さんのSTORY がん患者を助ける立場から当事者に。「社会に足りないもの」を伝えていく
これまで通りの生活を丁寧に送る
肺がんの診断を受けて、最初に感じたのは「これで治療法が見つかる」とホッとする気持ちです。しかし、進行度はステージ4です。それが末期がんを意味するものではないことは理解していますが、命の期限はあまり長くありません。
私は10年ほど前から、訪問鍼灸師・スポーツトレーナーの仕事をしています。鍼灸師としては、障害者の方や高齢の方、がんを患っている方など、歩行の難しい患者さんの自宅や入居施設を訪問して施術します。
ときどき小学校や中学校、市民団体からの依頼で、健康や命に関する講演をすることもあります。そこでは、医療的な知識に加え、これまでに関わった患者さんの生き方についてもお話ししています。
がんの場合、末期まで身体機能を保ったまま過ごす方が多くいらっしゃいます。そんな人の中には、命の期限が近付いていると知りながら、子どもたちの登下校の見守りや清掃ボランティアをされている方もいました。
あるとき、「なぜ自分のためではないことに時間を費やしているのですか?」と聞いたことがあります。返ってきたのは、「いま、できることをしたいだけだよ」という言葉。その姿がとても格好良く見えました。特別なことをしなくても、これまで通りの生活を丁寧に送ることで人は輝くのだと思います。
講演では、そのように素敵な生き方をしている方のことをお伝えしています。それに、自分ががんになってからは、治療の体験談や考え方の変化についてもお話ししています。
私も同じような生き方をできているかはわかりませんが、近いものを感じます。例えば、道端に咲いている花の美しさに、心を動かされる。家の近くで見る夕日に、思わず見とれてしまう。どこかで聞いたそんな話が、本当にあるのだと知ったんです 。