大島直也さんのSTORY がん患者を助ける立場から当事者に。「社会に足りないもの」を伝えていく
物理的な整理が不安を和らげる
肺がんの告知を受けたとき、妻にLINEで報告すると「そんな気がしていたよ」と返ってきました。「お金のことは心配しなくていいから、治療に専念して」と言ってくれて、すごく心が楽になったのを覚えています。
子どもは3人います。当時は長男が13歳、次男が7歳、長女が3歳です。下の2人はまだ小さかったので病気のことは話しませんでしたが、長男にはすぐに伝えました。
私は以前から市民向けのがんの交流会の手伝いをしていて、長男を連れて行くこともありました。がんという病気がどんなものなのか、少しでもわかってくれたらいいなと思っていたんです。その甲斐あってか、私の病気を驚きながらも受け止めてくれたように感じます。
私がいなくなれば、少なからず家族の生活に影響が出るはずです。子供たちには、父親のいない寂しさを感じさせてしまうでしょう。それはもちろん気がかりですが、自分自身のことだけを考えてみると、いつ命が終わっても悔いはないという気持ちです。
これまでずっと、好きなように生きてきました。家事や育児は最低限で、仕事を優先。結婚する前も、すべて自分で生き方を選んできました。「あれをやりたかった」「あのときこうしておけばよかった」と、悔やむようなことは特にありません。
仕事柄、人の最期の時間や亡くなった後を見てきたことも大きいと思います。先ほどお話ししたように、残された時間が少ない中でも、丁寧に生きることで輝く人はたくさんいます。
ただ、最後まで輝いて生きる人がいる一方で、すべての人が自分の最期に向けてしっかりと準備できているわけではありません。
私の場合は、患者さんやそのご家族と接することで、準備の大切さを感じることができました。患者さんが亡くなったとき、ご家族が「お父さんは最後まで、家族の言っていることを受け止めてくれなかったな」と口にすることもあります。
家族では話しにくいこともありますが、だからこそ話しておくようにしています。普段から「ありがとう」「ごめんね」と伝える。自分のお墓や葬儀についても、以前から妻と相談していました。
がんになってからは、もっと細かな準備の必要性も感じています。例えば、普段から少しずつ、物を整理しておくようにしています。大量の遺品を残して亡くなった方のご家族は大変なんです。
病気に対する不安や死への恐怖について、精神的なアプローチでの対処も大切です。同時に、物理的な整理をしておくことで精神的に安定していく、ということもあるのだと思います。