野中美紀さんのSTORY もしも娘が自分と同じ病気になったら。「いのちを優先した選択」のできる文化をつくる

正しく知って、正しく恐れる
遺伝学的検査は、現在でもハードルが高いものです。費用も高いし、法律もあまり整っていません。HBOCについて、多くの人に正しく理解してほしい。そうした考えから、HBOCの患者会の立ち上げに関わりました。姉が副理事長を務めていて、今200人くらいで活動しています。
まずは、医学的な知識です。先生に登壇してもらって勉強会を開催するなど、私たち自身が自分の治療を自分で選択できるように勉強しています。
まずは正しく理解することから始めました。学会に患者として参加して勉強をしたり、ドクターとも積極的に関わったりして情報を集めていました。ドクターも患者数が少ない中で、私たちの情報はとても貴重だったそうです。
それに、遺伝的な問題を誤解すると、差別にもつながりかねません。例えば、理科の先生に頼んで遺伝子についてわかりやすく子どもたちに教えてもらう。これは病気ではなく、特性なのだということを正しく理解してもらうための活動をしています。
こうした患者会の活動などもあり、乳房や卵巣の予防切除が保険適用になりました。HBOCを持つ人のうち、8割くらいは卵巣がんが発症します。検査の精度もそれほど高くなく、リスクを避けるため、あらかじめがんになる可能性の高い組織を切除するという選択です。HBOCは乳がんだけでなく、40~60%の人が卵巣がんも発症します。特に卵巣がんは検査での早期発見が難しく、リスクが高いんです。
私が病気になったとき、娘は中学2年生でした。そのときははっきり乳がんだとは言わず「ちょっと入院するから」と伝える程度でした。それで退院して仕事にも復帰しましたから、娘も「まあ大丈夫なんだろう」くらいに考えていたんだと思います。
そこからしばらく経ち、娘が高校に入ってから患者会のイベントに出てもらうために詳しく話しました。実は、私はこんなHBOCで、乳がんになっていた。あなたにもリスクがあるから、ちゃんと学んでほしい。現在娘は24歳で、姪は大学生。どちらももうすぐ遺伝学的検査を受ける予定です。
彼女たちには、新しい家族になる人たちにHBOCのことを伝えるのか、出産をどう考えるべきなのかといった悩みがこれから出てくるだろうと伝えています。そこに向き合いながら、HBOCや病気のことを正しく理解してもらいたい。私はHBOCと知ることでがんの再検査を半年前倒しにでき、いま元気に暮らせています。リスクを正しく知って、正しく恐れることが大切なんです。