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水戸部ゆうこさんのSTORY 私の命をつなぐ「ミラクル」。「自分の人生を生きる」という選択を支えるもの

治療を諦めてでも見たかった景色

2022年の秋、治験が中止されてしまいました。製薬会社の意向ですから、仕方がないんですね。主治医のお陰で数カ月後には別の治験を開始できたけれど、これが本当に辛かった。副作用で顔に血が滲んで、まともに顔を洗えない状態。体もむくんで足が上がらず、駅の階段すら上れません。

もう、これ以上は無理です。先生に「治験をやめたい」と伝えましたが、最初は受け入れてくれませんでした。がん患者が自分で治験放棄すれば、基本的には再開できません。それは治療法の選択肢をひとつ失うことを意味します。治療しながら、重い副作用を抱えて寝たきりで過ごすのか? それとも、治療(治験)を止めていまを大切に生きるのか? 究極の選択でした。

でも、私には絶対にやらなければいけないことがありました。そのとき2人の息子は中学3年生と小学校6年生で、卒業式と入学式が控えています。2人の成長を祝う席に、何が何でも参加する。自分の足で歩いて、しっかり立って2人の姿を見届ける。それが私にとって、一番大事。自分の命よりも大事なことでした。

顔の炎症は、マスクでなんとかなります。でも駅の階段も上れないのに、学校の体育館に行くことはできません。「だから薬はやめさせてください」ともう一度先生に伝えると、わかってくれました。

そうしてなんとか迎えた卒業式と入学式。私は脱力感と幸福感に包まれました。息子たちの成長を見ることはもちろんですが、息子との晴れ姿をSNSに上げると、みんなが祝福してくれます。もう駄目かもしれないと思っている人にも、希望を持ってもらえる。それが私の幸せであり、私の幸せは周囲の人の幸せでもあるんです。

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