杉浦雅昭さんのSTORY 病気とともに訪れた「奇跡」。人生に“自分軸”を取り戻す

「自分」のしたいことをする
がんになって最初の頃は、諦めたことがたくさんありました。家族を残して死ぬかもしれないというのに、自分のことに時間やお金を使うわけにいかない。父が最期まで妹の仕事を手伝っていたのも、いまでは理解できます。不器用ながらも、それが父のできる最大限の愛情表現だったのかもしれません。
しかし私は、「意外と死なない」と思えるようになってから、考え方が少し変わりました。それまでは、自分が死ぬことを見据えて、「家族のためにできることをしよう」と、どこか“他人軸”で考えていたところがあります。でも、ガンサバイバーにとって「時は命」。自分の人生を、少しでも悔いのないものにしたい。今日生かされていることに感謝して、「自分のために時間を使おう」と、“自分軸”に戻ってきた感覚があります。
私には、まだまだしたいことがあります。近年は、がん患者の活動に参加したり、フォーラムに登壇したりする機会があり、私にとって大事な活動のひとつです。それに、子どもたちと一緒にサッカーや釣りをしたり、旅行したりしたい。これは家族のためでもありますが、「自分がしたいこと」です。諦めなければ、できることはたくさんある。子どもたちの将来を誰かに託すつもりは、もうありません。
私は、いずれ“がんで死ぬ”と決めています。交通事故でも、自然災害でもありません。私はこの病気にとても苦しめられました。しかし、奇跡がつづいたことで、がんを受け入れ、“自分軸”を取り戻すことができた。がんを含めて、私の人生。それを終わらせるのも、がんであってほしい。がん以外の何かで死ぬつもりはありません。